たべていい?
だーめ
と言ってもそこに食べ物は無い。あるのは月。あるのは夜。あるのは風。あるのは天と地。あるのは私と彼女。
ちょっとだけ
だめよ。今日は無し、って、言ったじゃない。
ちぇ
ゆらゆらと照らし出す熾。ぱち、ぱち、と闇に色をまぶして躍っている。
黒い長い細い髪が銀色と交わっていた。ぼんやりと赤く照らし出される二つの姿は、背中合わせで交わらぬ視線。それでも気持ちは世界を一周した向こうで結びついていた。
ただこうしていたい。息遣い、身動ぎ、鼓動、体温。背中の向こうと地球の反対側にいる相手の存在を感じて。
熾火と彼女と私の体。夜の凍えに抗うのは、それだけだった。くべた薪の小さな熱では、華奢な彼女の体を温めるには足らないらしい。背中越しに小さく震えが伝わってきた。
……寒いか?
寒くないわ
くっついた背中をもっともっとと摺り合わせ、そこがあたたかいからと主張する。彼女の黒髪が、私の首筋をくすぐって、こそばゆい。それでも、それが彼女の強がりだということくらい、私にはわかる。それだけ時間を重ねた相手のことくらいは。
彼女の腕を掴み、それを手繰って掌を掴む。細くて、すべすべで、そして冷たい。指を絡めてそれを握ると掌から私自身が吸い込まれてしまいそうな程ひんやりとしていた。私はそれを自分のポケットへ導いた。狭い場所で二人、すっぽり体を寄せているような錯覚。
あったかい
無理すんな。足りないなら、火を
いいえ……これで十分よ
ポケットの中で、彼女の手が、ぎゅ、と締まった。私はそれを握り返す。彼女が頭をもたれさせてきたので、私もそれに合わせると、こちん、と頭が当たって。
くすっ
ふふ
どちらからとも無く、小さく笑った。
そして、再び心地よい停滞が二人の時間を覆い隠してゆく。
月光が夜を奏で、薪の割れる音がオブリガード。竹薮が、風が、星の綺羅めきが、そんな淋しい小夜曲をより濃い藍色に染め上げていた。
月の舟はもうそこまで来ている。残された時間は、僅か。
ねえ、この体勢、少し、つらいわ
ああ、すまない
後ろに手を握られて引かれている姿勢は、確かにつらいだろう。私はしなやかなそれを握る手を緩めるが、彼女はそこから出て行かない。
いいの?離しても。貴方から離れても。
お前がつらいと言うのなら
言うと今度は私の手が握り返された。
ばーか
んだよ、それ
頭を軽く、ぶつけてやる。いたっ、と声が上って、それに続いて笑い声。つられて私も笑ってしまう。
いつ、帰って来るんだ?
こっちには、来ていたのよ。帰るのは、あっち
はぐらかされたか。ふっ、と鼻で笑ってしまったが、彼女は言葉を続ける。
そう、か
溢れる思いが言葉にならない。押し殺せば苦しく、吐き出せば陳腐。言語化しない未分化な感情を、どうにかして、どうにかして彼女に伝えたい。
もう、来ないかも知れない?
いいえ。私は、帰ってくる。必ず。
だから、いつ
……すぐよ。だから、首を洗って待っていなさい?
そりゃあそうに違いない。無限に内包されたすべては大きさを失い点となる。どんなに長い時間であっても、相対的には「すぐ」。だが、それは体の問題だ。心は、そうは行かない。
同じ血を、引いてるんだな
え?
無理やりお前を引き留めたい。何百年経って、結局同じことしか考えられない地球人を、私を、莫迦だと思うだろう?
ええ、莫迦。でも……
体を捻って正面に回ると、私を押し倒すようにして彼女は唇を押し付けてきた。笹が、鳴る。
優しいキスじゃない。
激しいキスじゃない。
求めるキスじゃない。
与えるキスじゃない。
ただ、つながりたい。
私がそうであるように、彼女もまたそれを願っていたのだろうか。
舌が絡み合って唾液が行き来する。その度に、愛でも恋でも慕でも、恨みでも辛みでも憎みでもない、剥き出しの、生の感情が流れてくる。
貴方の事、好きなんかじゃない。
私もだ
もっと違う、もっと根っこの感じの、もっと強い
……私もだ
生も死も忘却の彼方に失った、私達だけが知りえる感覚だろう。私達だけが共有できる感覚だろう。そういえば彼女の従者も……?小さな疑問が浮かんだが、すぐに隅に追いやった。私が出来るのは、私が信じられることを信じるだけ。他のことは全て手に届かない、詮無きことだ。
私は再び、白と黒のコントラストに妖艶なアクセントを落とす紅に、自分の薄い唇を重ねた。手はもうポケットから出ていたが、今度は両手とも指を絡める。
唇の感触。舌の柔らかさ。頬の温もり。唾液の滑り。かかる息遣い。漏れる音。すべてが彼女自身になり、すべてが私の中に入り込んでくる。言葉になる前の、原初の気持ちが。
月影を背負う彼女の姿は、生絹と黒檀の優雅な対比。それが、まとう衣の下にも続いていると思うと、昂ぶりが止まらない。今あるこの感情には、しかし明確な名前があった。
即ち、欲情。
……わざわざ訊くところが、可愛い
ばかにしてンな?
本気よ。貴方、自分のかわいらしさを、知らない。
宵闇を湛える瞳が私をまっすぐに見ていた。
この瞳に姿をたゆたわせるのは、この声を聞くのは、この肌の温もりを感じられるのは、次はいつだろう。何年だって、何日だって、何時間だって何分だって、一秒だって一瞬だって、彼女と離れていたくない。
憎んで憎んで憎み抜いて、恨んで恨んで恨み抜いて、傷つけて壊して殺した相手に、しかし今は側にいて欲しい。どこにも行かないで欲しい。
私は無言で彼女の衣に手をかけた。彼女は少しだけ目を細めて私を見、唇を緩める。私が脱がしやすいように肩を動かしたり体をひねったりしながら、私のサスペンダーを外した。
豊かな胸が目の前で踊る頃には、私のシャツのボタンも全て外れ、互いに上半身を露にし。私は彼女を地面に押し倒した。両の手でそれぞれの手首を掴み、膝を絡めて彼女の身動きを封じる。
そんなにしなくても、逃げないわよ
逃げるだろ、月に」
……ごめんなさい
すまない。言っても仕方の無いことだな
私は手首を離す。
月と幻想郷との関係は、一触即発の状態。面白おかしくその危機が回避された以前のものとはその性質そのものが違う。
彼女とその従者は月の動きを何とか牽制しようと、厭戦派の密使に招かれての帰月。一方の私はこの騒動の黒幕に唯一声を上げられる者へ接触を試みているが……芳しくない。当然だ。人を殺してまで、人としての理を踏み越えた私と、正式に面会などする筈も無い。
契り
ん?
月と地球の、永遠の契りよ。今迄幾組かの蓬莱人が月と地球で離別しているけれど
一旦言葉を切って、私の頭をぐい、と寄せる。そして唇を押し付けられた。
さっきのキスとは違う。強い意志を感じる。
月と地球の架け橋になれるのは、私達だけ。私から見れば、貴方以外の地上の存在は信用できない。地上なんて広大なものも、月なんて巨大なものも、私は信用できない。でも、私は、私自身と貴方だけは、信じることが出来る。だから、私達が、月と地球の契りとなる。……お互い、これからしばらく辛いかも知れないわね。
世論は戦争肯定。厭戦派は少数で地下に潜ってその形を潜めている。同属の内部から声高に反戦の声を上げることは、自分の寿命を縮めるようなもの。それほどまでに事態は進んでいた。
辛いだろうな、お前と会えないのは。
もう、そうじゃないでしょう?
辛くないのか?
さっき言ったでしょう。辛いから、辛くないから。そういう理由で離れるのではないと。でも寒いからといって貴方に頼るのも嫌だと。
……ああ。
彼女の細い指が、私の頬を撫でた。人差し指で頬から顎のラインをなぞって、そして唇を触る。
いいわよ。その代わり、千年経っても忘れられないように、して
その言葉を聞いて、私は、唇を撫でる指先に舌を伸ばし。
それに強く噛り付いた。
甘噛みというレベルではない。私と彼女の間にそんなものは必要ない。噛み付いた最初から、私の歯は白い指先の皮膚を突き破り、肉を割いて骨の硬さに至っている。
ん……っ
私が噛み付くと、甘い声が聞こえた。眉をしかめて瞳を潤ませているが、これは苦痛からではない。その証拠に、指を引こうともしない。それどころか中指、薬指と伸ばして次を促してくる。
望まれるまま、いや、私が望むままにそれに貪りついて絹のような美しい手に噛み付く。第二関節のあたりに強く前歯を入れてそれを噛み千切り、指先を切り取って口へ運んだ。口の中で肉を削ぎ落としてそれを飲み込み、骨を外に捨てる。
彼女の味がする。血液を飲み下し、肉を食べる。堪らない。なんて美味。そして、なんて興奮するんだ。股間の間でペニスが痛いくらいに屹立している。
っは、もっと……そんなんじゃ、千年後には、忘れてる
うっとりと声を上げる彼女の右手の指の第一か第二関節までを全て腹に収めたところで、私は口許を鎖骨の辺りに運ぶ。優しく盛り上がった骨のラインに舌を這わせてその滑らかさを楽しむ。更に下に降りて、乳房。ピンク色の乳首は、興奮に立ち上がっていた。
私は彼女を食べて彼女を内に取り入れることに興奮し、彼女は私に食べられて私と同化することに興奮する。それが私達のセックス。
外気の冷たさに強張る様子の乳首に吸い付いて、唾液を塗す。舌でそのぷりぷりした感触を楽しみ、そして。
ンうっ!
噛み千切った。
口の中にある乳頭の切り口を舌でなぞる。彼女の肉の味がした。堪らずそれを奥歯でかむ。一度。二度。三度。奥歯で乳首が噛み潰されて、血と肉が解れて口の中で踊る。その味が口の中いっぱいに広がると、それだけでくらくらするほどの快感が脳髄を打つのだ。その美味な肉を嚥下して、乳首がなくなり血を噴いている彼女の乳房へ再び口をつける。
胃の中で踊る彼女の一部を感じながら、更に彼女の体を貪るのだ。
胸っ!す、ご……ぁん!
指のなくなった手で私の頭を抑えて胸肉に私の口を押し付ける。そうされるままに乳房に噛み付いてその肉を貪った。
んあ、はっ……ん、たべ、てっ。もっと、私を、中に入れてっ!
肉を齧ったまま、顎を引いてむしり取る。ぶちぶちと千切れたそれを口に含んで咀嚼。肉の熱さ。血の滑り。リンパの塩みと脂肪のとろみ。柔らかい乳房には、筋張った筋肉は少なく、柔らかい肉質は極めて贅沢な味わい。口の中で広がる最高の愛の味。
んぐ、ん。美味しい。美味しいよ。それに、凄く興奮する。
っは、あ!そんな程度で満腹にならないで……もっとぉ!私を食べてっ、私をいかせて!噛まれる度に、契り取られるたびに、感じるの!食べられて、きもちいいっ!!
幾らかの必死な色を交えた彼女の嬌声。完全に快感にまかれている。
指や唇、耳、頬や腕の肉みたいな、細かいところはいつも食べてる。次はどこを食べればいい?どこを私の中に入れれば、彼女は喜んでくれる?私は、どこを食べたい?どうすれば、忘れられない程のものを、私と彼女に残せる?
答えは決まっていた。あの日、私達が変わったあの日に貪った……
臍の穴を舌でほじり、その窪みに歯を立てた。
ぁ……
どこをどうしようかということに、彼女は気付いたらしい。頬を高潮させて私の食事を見守っている。息遣いは荒い。肩で息をするほどの興奮。それは私も同じだった。
臍の窪みを切り口にして、向かって右方向に肉を噛み千切った。
あっ、あ、あああ、すご、いっ……そんなとこ、すご、いっ!!
食べられた経験の無い私には想像のつかない種類の快感が、彼女の能を支配してるのだろう。目をぐるぐると回して涎をたらして悦を叫んでいる。
その反応を確認して、臍からむしり取った肉の柔らかさを、更に前歯で掘り進む。そのたびに柔らかい腹の肉が口に入ってくる。それを食べるたびにお腹の中が熱くて、彼女を内に入れる喜びがびりびりと首筋から体中へ広がった。
お腹の中の熱は下にも降り、股の間で自己主張をする肉棒へも伝わる。びくびくと震えて下着の内側で先走りを漏らしていた。
下着ごともんぺを下ろし、それを外気に晒すと空気の冷たさが心地よい。
おっきくなってる……
血をだくだくと流しながら、しかしうっとりと私のペニスを見つめている。だが、これを本来の使い方で使うことに、私達はもう飽きていた。
単なる肉の摩擦なんかよりも、私は肉を食べる方が、よほど興奮する。それは彼女も同じだったが、興奮のバロメータとして勃起と射精は未だに健在で。彼女の前にこれを晒すのは、私が興奮していると伝える一つの手段。彼女もそれを見て、満足するのだ。
ここで、いいか?
うん。そこ、いっぱい食べて。そこでイきたいっ……
腑を包み込む柔らかい肉を、前歯でこそいでは口に運ぶ。乳房の肉とは違って少し筋っぽいが、その歯ごたえがより、食べているという意識を高ぶらせ、興奮を誘う。
食べている私は、自分でもわかるくらいに鼻息を荒くしてその肉を食い尽くそうとしていた。
ぉ、ぁああっ!お腹、の、肉食べられっ……んぅア!きもちいっ、たべられるのォ!貴方の栄養になって、貴方の一部になるっ!私が貴方の一部になるのよっ!ああ、あああっぐぉぁあ!!
私が肉を食い千切る度に、背筋をびくびくと振るわせている。見ると彼女の股の間からは尿が漏れていた。スカートの中、太腿の付け根、そこにある女陰に指を添えると、彼女もまた濡れていた。尿とは別に、とろみのある液体を太腿にまでぐっしょりと滴らせるほど、彼女は感じていた。
私はその様子に満足して、再び彼女の腹を食らう。
腹筋を食い尽くすと、柔らかな内臓が顔を覗かせた。白と黄色と赤とが複雑に彩を成し、ほこほこと湯気を上げるそれは、たまらなく美味しそうで。
私は喪心してそれを貪った。両手で腸を引き出して歯を立てる。皮膚や肉とは違う独特の歯ごたえ。味。そこから伝わり感じる、本当の、根元の感情。好きと言う言葉にさえ置き換えられない、温かく激しい感情。
あ、ああ!それ、すごいわっ!お腹の中、食べられてっ!私の中が空虚になって貴方の中に入ってゆく……すごい、すごいすごいすごい、感じるのお!気持ちいい、食べられるの、きも、ち、いいイいイぁああああアあぁ!!
っは、あ、もっと、もっと食べさせてくれっ、お前が入ってくる度に、体が熱くなってっ、気持ちよくなる、興奮するっ!!感じるうっ!んぶ、はむ……んく、くっ!
彼女が欲しい。全てが欲しい。食べるたびに満たされて、満たされて興奮して。
大腸と小腸を貪り喰らい、熱く高まる私の体。
雷に打たれたように跳ね回る彼女の体。
イく……内臓食べられるの、きもち、い……イっちゃううっ!
わた、しも、もうすぐ、クる……お前が中に入ってくるの、気持ちいいっ、最高だっ!!
白目を剥いて舌をはみ出し、顔を快楽でぐちゃぐちゃに壊した彼女は
あそこ、あそこ、食べてっ!あの日みたいに、おまんこ、たべ……て、犯してっ!!
スカートを捲り、快感で濡れそぼったそこを食べて欲しいとせがむ。だが、私はそれを断った。
だめ、だめだっ、そこは、お預け……お預けだっ!次に、お前が月から帰ってきたその後まで、そこは食べないっ!
お預けを食らっているのは私だった。そこから目を離せない。ペニスがぎんぎんと充血して、刺激を求めている。喉の奥がからからに渇いて、愛液に濡れるそこの潤いを、その肉を求めている。
それでも、それを残しておくことが、私達の紅い糸になる。
私はお預けの苦しみを紛らわせるように、彼女の腹に空いた穴に顔を突っ込んで口に付くものを食べる。これは、横隔膜だろうか。一定間隔で上下している。
んあ!がっ、ぐぎぎ、ぎ……!いいっ、お腹犯されて、ぎもぢいいっ!!―!?―っ!……―!!
それを噛み千切って食べると、張りがあって、これも相当に美味しい。そしてそれを噛み千切って上下の動きを阻害した途端に彼女の声が聞こえなくなったところを見ると、本当に横隔膜だったらしい。嬌声を捻り出すことが出来ずに、それでも快感に咽いで、びくびくと痙攣を繰り返す彼女。
はっ……あ、も、う、だめだ……イく、私、イクっ……!!
口の端から横隔膜の切れ端を零して、絶頂へ駆け上る私。込み上げて来る快感は、脳髄を経由して、ペニスへ。
イくっ!いく、いく、イクイクイクイクイクイクっ―……ああああアあぁああおぉああああああっ!
ペニスが痙攣して吐精する。吹き出る精液を、私は彼女の腹の穴へぶちまけた。
赤い血が吹き出続けるそこに、真白い粘液を重ねて、私自身を彼女の中に残す快感に打ち震える。それが更に興奮を高めて、射精を促す。口に残った肉を噛み、広がる味に快感を高めて、最後の一滴まで彼女にぶちまける。
―!―っ!……!!
声の出せない彼女も、大きく背を反らせて体を強張らせた。ぐん、っと一度反らせるとしばらく固まり、弛緩する。そして再び痙攣して固まる。
彼女もイっているのだ。
……声を出せなくしてしまったのは、失敗だった。
射精の限りを終えた私は、脱力して彼女の上に崩れ落ちる。気持ちのよい、ぷかぷかと浮かぶような感覚。いつもは襲う睡魔を邪魔するように彼女の言葉が投げかけられるが、今日はそれが無い。
絶頂の果ての心地よい虚脱感に身を任せて、私は意識を手放した。
お腹の中に、まだ残ってる感じがするわ
服を着直しながら、彼女はどことなく満足そうな声でそう言いながら私を見た。
残るも何も、逆に取り出してたんだけどな
私もシャツを着て、サスペンダーを直す。
すっかりと下の姿になった私達。今夜のことなど無かったかのように。それでも私のお腹の中には確かに熱さが残っている。だが彼女の中に残るものなど無いんじゃないだろうか。私が食べたのだから。
ふふ、ちゃんと私の中に出してくれたじゃない?
笑う彼女を見て、それが何のことか思い当たった。
それはもう残って無いだろう
それでも、いいのよ。貴方がここにいると思えれば。ほんの少しは紛れるわ。
星舟はまもなく彼女を迎えに来るだろう。
しばしの別れは、まもなくだ。
ああ
もっと違う、もっと根っこの感じの、もっと強い
ああ。聞いたよ。
でもね、言葉にするとどうしても、こうなってしまうの
好き
私もだ、という言葉の代わりに口付けを返す。
唇と唇が優しく触れるだけのキス。
あのときの男と違って、私は永遠に待ってるからな。
うん
一息だけついて、彼女は私を真っ直ぐに見て再び口を開いた。
いってきます